レシピなしで作る、温かい汁物

先週末の台風19号は大きく深い爪痕を残して去って行きました。
被災された方々へお見舞いを申し上げます。一日も早い復旧がかないますようお祈りいたします。

このところ急に冷え込んできたので、風邪をひく人が増えていると聞きます。災害でストレスを受け、ただでさえ疲れているところに、寒さで体が冷えると体調を崩しやすくなります。これからの季節はぜひ、具だくさんの汁物で温まってほしいな、と思います。

本を見てレシピ通りに作ってももちろんいいのですが、おいしい汁物の「基本」を押さえておけば、レシピを見なくてもアレンジ自在、季節や体調、好みに合った汁物が作れるようになります。

レシピなしということになると、だしは何で取ろう? 具材は? 味付けは? と迷ってしまいがち。そんなときは、この基本を思い出してください。

・汁物は、具材が多ければおのずと味が深くなるので、だしに関してはあまり心配しなくても大丈夫。
・少量の油と水で野菜を蒸し煮にしてから水を加えて煮る手順にすると、野菜の甘みを引き出せる。
・油はサラダ油、オリーブオイル、バター、ごま油などから好みで。油脂が入ることで水分の上に油膜の蓋ができ、汁物が冷めにくくなるメリットも。
・野菜を選ぶときは、必ずねぎか玉ねぎを使う。栄養価が高く、甘みが加わってスープがおいしくなる。
・洋風ならにんじんやセロリ、和風なら大根やごぼうなど根菜をベースに、他の野菜やきのこ類を加える。
・肉や魚介、豆腐や油揚げ、麩など蛋白質が入ればさらに栄養価アップ。蛋白質を入れたら弱火でコトコト煮込む。仕上げに卵を落としても。
・味付けは塩・こしょうでもいいし、しょうゆベース、味噌ベースでも。シンプルな味付けで十分おいしいのが具だくさんの汁物のいいところ。
・冷めにくくするためのとろみをつける方法は3種類。それぞれ食感が違うので、具材や好みに合わせて選ぶ。
①水溶き片栗粉(片栗粉と水を1:2で混ぜたもの)を仕上げに手早く混ぜ入れる。 
②好みの油脂と小麦粉を1:1で混ぜたもの(フランス料理の「ブールマニエ」=バターと小麦粉を混ぜたものの応用)と半カップ程度の煮汁を混ぜ合わせ、なめらかになったら鍋に戻して混ぜて加熱する。
③じゃがいもや長芋のすりおろしを仕上げに加えて軽く煮る(素材が持つでんぷん質でとろみがつく)。 

いかがでしょうか。今日、冷蔵庫にある材料でもきっと作れますよ。心も体も温まる汁物やスープ、あつあつをたっぷり召し上がって、この冬も元気に過ごせますように。

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フランスの家庭でポピュラーな「蒸し料理」とは?

1冊目の『フランス人は、3つの調理法で野菜を食べる。』が発売されたのが2016年9月。それから毎年9月に1冊ずつ刊行され、おかげさまでご好評をいただいている「フランス人の3種」シリーズ。このたび4冊目の『フランス人に教わる3種の “新” 蒸し料理。』が完成しました。今回フィーチャーしたのは、フランス流の「蒸す」という調理法です。

従来のイメージでは「蒸す」調理法は中国や日本などアジアが主流と思われていますが、実はヨーロッパでもよく使われています。素材に蒸気で火を通すのが共通項ですが、アジアのように大きな蒸し器を使うわけではありません。フライパンの底に水を張り、濡れないようにお皿やオーブンシートを敷いた上に食材を置いて、きっちり蓋をして加熱。ふっくらジューシーに仕上がる合理的な調理法です。ヨーロッパで目の当たりにしたそんなテクニックを、いつか書籍にしてご紹介できたらと思っていました。

詳しくは本をご覧いただきたいのですが、フランスの家庭でポピュラーな「蒸し」の方法は、大きく分けて3種類あります。日本の蒸しに近い「ヴァプール」、油分と水分で蒸す「エチュベ」、スープベースで蒸す「ブレゼ」。特に調味液で蒸す方法は、素材の味がしみ出してさらにおいしくなった液を、素材が吸い込んで旨味を増すうえ、栄養分も流出しないという素晴らしさです。

ヨーロッパで蒸し料理が発展したのは、現地の水が硬質で、野菜などをゆでてもあまりおいしく仕上がらないから。でも、かといって電子レンジで加熱するのは嫌う食いしん坊の現地の人々。野菜はていねいに蒸すことでおいしくなるので、そこからエチュベのような調理法が生まれてきたのだと思います。

3つの調理法ごとに章を分けて解説し、素材に合わせて塩味ベース、酢を効かせた味、トマト味などバリエーションも楽しめるようにしました。最適な食材や、ぴったりのソースのご提案もしています。

蒸し料理のメリットはもうひとつあります。蓋をぴっちり閉めて加熱するので、油や水がはねることがなく、火口まわりが汚れません。片付けが楽だと、トライしてみようという気が起こってきませんか?

一冊手元に置いておけば、小さなおかずからメイン料理まで、ヘルシーでおいしい蒸し料理が完全マスターできます。これまでの4冊の中でも特に作りやすく、献立に加えやすい料理が揃ったと思います。蒸気でキッチンが暑くなるので夏の間は敬遠しがちでも、少し涼しくなってきた今からなら、ぴったりの蒸し料理。新しい季節の食卓を賑わせる新しい一皿を、ぜひ作ってみてください。

フルーツを料理に使おう!

デザートやお菓子以外の料理に果物を使うことに、少しばかり抵抗があるでしょうか? 酢豚に入れたパイナップルやポテトサラダに入れたりんごが今ひとつピンとこなかったという人は、ある年代以上、特に男性に多いような気もします。でも今、料理にフルーツを使うことは、かなりポピュラーになってきています。

料理にフルーツを使ういちばんの魅力は、ほのかな甘み、ジューシーさなど野菜にはない特徴が加わることで、見た目が華やかになるうえ、味の奥行きも豊かになること。和食では味に深みを出すために砂糖を加えることがありますが、ヨーロッパの料理でこの役割を果たすのはもっぱらフルーツ。フレッシュのままでもドライにしたものでも、果物の自然な甘みを生かした料理は、実はとてもたくさんあります。

みなさんにおすすめなのは、ちょうど今から秋にかけて続々と出てくるフルーツです。桃、ぶどう、いちじく、プルーン、柿、そして洋梨。これらのフルーツは、香りも甘みもいわば少し派手めないちごやオレンジなどと違い、ほのかな甘みで優しい味わいなので、他の素材とも合わせやすいのです。

気軽に試すなら、まずはサラダで。すっかりおなじみになった桃とモッツァレラのサラダは、いちじくや洋梨に変えてもおいしく召し上がれます。生ハムやチーズの塩気ともぴったりなので、たとえば、柿と生ハムのサラダ仕立てなどもいいですね。左の写真は、柿と洋梨を塩とビネガーとオリーブオイルでマリネしたシンプルな前菜です。

同じくいちじくや洋梨は、バターでソテーして肉料理の付け合わせにしても素敵。右の写真はもう少し手間をかけ、ポークフィレ肉を洋梨のクリームソースで仕上げた一皿です。ぶどうやプルーンはフレッシュでもドライでも、肉料理のソースをおいしくします。
和食にぴったりなのは、柿やいちじく。食べやすく切って白和えや胡麻和えにすれば、ちょっとおしゃれな箸休めになります。

そんなふうに、フルーツをもっと料理に使ってみたら、きっと季節感を堪能できる新しいお気に入りメニューになりますよ。

夏の和食にひと振り! ナンプラーの威力

例年よりは涼しい日が続いていますが、これからやってくる猛暑に備えて、夏をのりきるおすすめ食材の話をもうひとつ。

ナンプラー(ニョクマム、魚醤)を買ったけれど、生春巻きのたれくらいしか使い道がなくて、冷蔵庫に余らせている人は多いのではないでしょうか。実は私もそうで、アジアのごはんは好きですが、かの国々を旅する機会が多かったり現地の食事を詳しく知っていたりするわけではないので、あまりたくさんの使い道を思いつけませんでした。でもある暑い日に、もしやと思ってしょうゆの代わりに使ってみたら、あの独特の香りが蒸し暑い気候とシンプルな和食にけっこうフィットすることがわかったのです。

瓶に鼻先を近づけるとかなり特徴的な香りがするナンプラー。何にでも使うのはちょっと……と敬遠しがちですが、思い切って使ってみると、こんなにいろんなものに合うとは! と驚きです。ナンプラーを入れてみてもしピンとこなかったら、酢や砂糖で酸味や甘みを足しましょう。それでもバランスが悪かったら、唐辛子をプラス。そう、みなさんご存じの、生春巻きのたれの組み合わせです。たとえば、きゅうりとわかめとちりめんじゃこの和え物を、三杯酢や二杯酢の代わりに、このたれで和えてみてください。このナンプラーだれをアレンジしたつゆと、たっぷりの薬味で食べる素麺も絶品です。鶏や魚の唐揚げにレモンやポン酢のようにかけるのもおすすめ。これを葉野菜で巻けば、ちょっとしたアジア風のごちそうになります。

ナンプラーは加熱してもコクが出ておいしいので、炒め物や汁物の味付けにも使ってみましょう。難しく考える必要はなく、いつもしょうゆや塩を入れるところを、ナンプラーに変えるだけ。ここでも、酢と砂糖と唐辛子を脇に控えさせ、バランスをみながら加えていくのがコツ。単体よりむしろ、他の味を加えることで本領を発揮できる調味料といえるかもしれません。ナンプラー味の甘酢炒めなんて、食欲をそそりますね。アンチョビと同種の魚のうまみがあるので、野菜をたっぷり食べられるし、オリーブオイルやバターと合わせても意外なほどしっくりきます。

昨今の日本の夏の暑さは、ほぼアジアの熱帯エリア級。ナンプラーの秘めたる可能性を気軽に試しながら、いろいろな料理に活用すれば、日々の食卓がもっと楽しくなると思います。そうなれば、1瓶なんて1シーズンであっという間に使い切ってしまうかもしれませんね。

香りと香りをぶつけ合う。夏のハーブの使い方

6月の前半、1週間ほどフランスに滞在してきました。フランスでも夏になると、国内の地方でいえば南仏、海外なら北アフリカや中東、東南アジアなど、暑い土地の料理を楽しむことが多くなります。

これらの料理に共通するのは、ハーブがふんだんに使われていること。ほとんどのハーブの旬は夏で、どんどん収穫できるためか、この季節になると市場やスーパーマーケットには、まるで花束のようにまとめられたさまざまな種類のハーブが並びます。こんなにたくさんどうするんだ?という量ですが、そんなハーブのブーケを全部使い切れないかというとそんなことはなく、葉っぱはちぎって、茎はざくざくと刻んで、かなり多めの量を料理に入れて楽しむのです。そんな彼らのやり方を見ると、これが本来のハーブの使い方なんだなと気づかされます。そしてこのやり方を見習って料理を作ってみると、日本の蒸し暑い夏にも合う、新しいおいしさが発見できます。
たとえば、たっぷりのバジルやパクチーを丸ごと茎まで(ときには根っこまで)刻んで、炒め物に混ぜてみてください。ハーブの香りがダイナミックに口の中で弾け、体も気持ちもとても元気になります。タイ料理のガパオ炒めをバジルで作るなら、葉先を少量つまんでのせるのではなく、ぜひ2人分で1パックくらい使い、茎も捨てずに全部入れましょう。さらに、ここに同じ量のパクチーも加えれば最強です。香りの強いハーブは単体でなく、合わせて使うと、どちらも負けずどちらも勝たず、拮抗したまま実におもしろい味わいのハーモニーを奏でます。冷奴やトマトサラダにのせるしそとみょうがが、勝ち負けなしで引き立て合う、あの感じです。
ベトナムのフォーや揚げ春巻きは、たっぷりのミントとパクチーと一緒に食べますね。イタリアンパセリ、チャービル、ディル、ミントなど数種類のフレッシュハーブを混ぜ合わせてドレッシングで和えれば、香り高いハーブのサラダのでき上がり。味わいもパワフルで、肉料理の素敵な付け合わせにもなります。
ほかには、セージとイタリアンパセリも意外とよいコンビ。ローズマリーだけはちょっと個性が強いので、単独で使うのがおすすめですが、いろいろなハーブの組み合わせを試して、好きなコンビを見つけるのは楽しいもの。ハーブは仕上げに添える飾りではなく、香り高い緑黄色野菜。たっぷりのハーブの香りをぶつけ合い、清涼感をプラスした料理で、フレッシュなエネルギーを体に取り込み、夏の元気をチャージしてください。

夏の和食に合うワイン

蒸し暑い季節の到来ですね。私はもともとワインが好きで年中よく飲むのですが、夏のお気に入りはなんといってもソーヴィニョン・ブランです。このぶどう品種のもつ、ほどよい酸味とミネラル感、さわやかですっきりした果実香は、日本の蒸し暑い気候にとてもフィットします。私自身、夏の食事のお伴はソーヴィニョン・ブラン1色と言っても過言ではないほど。このぶどう品種の魅力はほかにもあって、いわゆる「グラン・ヴァン(銘醸ワイン)」に使われる品種ではないので、フランス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど世界の各産地のワインが、どれも比較的買いやすい価格帯で手に入ります。

代表的なのはフランスのロワール地方。サンセールやプイィ・フュメなどが最も有名ですが、その周辺にもおいしい白ワインを作る村がたくさんあり、私はこの地域が世界のソーヴィニョン・ブラン種ワインのトップだと思っています。有名なボルドーワインの白もソーヴィニョン・ブランがベースで、これもとても魅力的。また、最近とてもおいしくなっているオーストラリアやニュージーランド産のソーヴィニョン・ブランは、フランス産とはまたちょっと違ったトロピカルで華やかさのある香りと味わいが特徴です。価格も親しみやすく、1000円台でかなりおいしいものが買えるようになっています。

そして、これらの白は日本の食事、特に、夏に食べる和食にとても合わせやすいのです。試しに、薬味をたっぷり添えた豚しゃぶやゆで豚、冷奴、それから鶏天、焼き魚、鯵のマリネ、あっさりめの南蛮漬けなどに合わせてみてください。みょうがや大葉などの薬味やポン酢などの柑橘系の酸と、ソーヴィニョン・ブランのもつ酸味が、意外なほどぴったりくることに驚かれると思います。今度ワインを買いに行くとき、ぜひソーヴィニョン・ブランを探して、そして和食に合わせてみてください。とても楽しいですよ!

6月は梅仕事でスタート

日本の家庭には、昔から作り続けられてきた伝統の保存食があります。季節ごとに自然の恵みを保存して、長期間楽しめるように工夫する暮らしの知恵。これから旬を迎えるのは梅、新しょうが、らっきょうですが、これら「3点セット」のうち、梅は特にさまざまな使途があります。果実の保存食はトップシーズンにしか作れないものなので、旬の時期にぜひトライしていただけたら、と思います。

梅を使った保存食といえば、何が思い浮かびますか? 梅干、梅酒、梅みそ、梅ジャム、梅シロップ……いろいろありますが、私は、初心者の方がいちばん気軽にトライできるのは梅酒だと思っています。たとえば、梅干を家庭で作るには実際かなりの手間がかかりますし、しっかり塩分を効かせないと保存が難しいため、今主流となっている減塩タイプや甘みを加えたものを作るのは至難の技。昔ながらの塩っぱい梅干も、それはそれでおいしいものですが、なかなか気軽に作るという感じではないですね。

その点、梅酒は材料もプロセスもとてもシンプルです。保存瓶に梅と氷砂糖を交互に入れてお酒を注ぐだけで、夏の終わり頃にはエキスが滲み出たおいしい梅酒に。ポイントは瓶も梅もきれいに洗ってしっかり乾かすことだけ。瓶はアルコール度の高いお酒か酢で内側を拭いて乾燥させ、梅はヘタをきちんと取り除いてくださいね。3、4ヶ月後から飲めますが、できたら半年以上おいたほうがおいしいので、我が家では毎年、次の年に飲む梅酒を仕込み、保存瓶の中の梅酒が残り少なくなった初夏、それを別の瓶にあけて、また新しく作るというペースで20年以上楽しんでいます。今年からは大学生の息子が仕込み係になりました。

果実酒用のブランデーやホワイトリカーのほかに、日本酒で仕込む梅酒もおいしいものです。梅1kg、日本酒1升、氷砂糖600〜800gくらいの割合で、作り方は同じ。日本酒ベースの梅酒は割らずにそのままかロックで飲むのがおすすめです。お酒が飲めない人は梅と砂糖だけで作る梅シロップもいいですね。また梅酒に浸かっていた梅は、写真のような梅酒ゼリーに仕立てたり、刻んでフルーツケーキに焼き込んだりしても楽しめます。小さな可愛い青梅が出てきた今が作りどき。初めての方もぜひ、楽しい梅仕事にトライしてみてください。

新しいおいしさの見つけ方、料理本の新しい使い方

来月、出演が決まっているNHK「きょうの料理」で、和の薬味を洋の料理に使うレシピをご紹介することになっています。「薬味たっぷり簡単おかず」というテーマで、和食、洋風料理、エスニック料理を3人の料理研究家がそれぞれ担当する予定で、私はその中の「洋」の担当。洋風のハーブではなく日本の薬味を使うのがポイントで、みょうがやしょうが、ねぎや大葉を、洋風の料理においしくマッチさせるには?というのが命題です。

でも考えてみれば、洋のハーブも和の薬味も使い方はほぼ一緒。洋風おかずに和の薬味を使っても、逆に和風のおかずに洋のハーブを使っても、おいしいものはできるはず。常日頃からそう思っていたので、とてもやりがいのあるオーダーをいただいたとうれしく感じました。

しょうがを効かせたラタトゥイユ、大葉をたっぷり入れたチキンとポテトのアーリオオーリオ、薬味を刻んで入れたタルタルソースなど、少し頭を柔らかくしてみれば、いろいろな組み合わせが考えられます。とはいえ何でもかんでも組み合わせられるわけではないので、合うか合わないか、おいしくなるかならないかは、小さなチャレンジを続けて試していく必要があります。そんな時間から、思いもかけない新しいおいしさが生まれてきます。

そこで思ったのが、読者のみなさんは普段、料理本をどんなふうに使われているのかな、ということ。もしかしたら家庭における料理って、本に載っているレシピを一から読んでその通りに作るか、あるいは本は一切使わず、ある素材を焼いたりゆでたりして味付けするだけか、その両極なのでは?という気もします。そこにちょっとしたチャレンジ、小さな冒険心を入れていく余地があれば、食卓はもっと豊かになるのではないでしょうか。

料理本から覚えたお気に入りのレシピがあったとして、必ずその材料だけで作らなければいけないわけではありません。冷蔵庫にちょっと残っているあの材料、加えたらどうだろう?と考えてみると、ちょっとした頭の体操になります。料理本は、掲載したレシピをできるだけ多くの皆さんに作ってもらいたいと、料理研究家や料理編集者が情熱を込めて、使命のもとに編集しています。そんなプロのナビゲーションを上手に利用して、そこに自分の意見をちょっとのせて、楽しんでみるのもまたひとつの方法だと思います。

そう、ときには料理本を「ネタ帳」と思って眺めてみると、何か新しいアイディアが生まれるかもしれません。たとえばファッション誌を見るときは、コーディネートは参考にするけれど、上から下まで同じものを揃えるわけではありませんよね。自分の持っているアイテムに何か足してこんな雰囲気にならないかな、と考えると思います。そんなふうに「コーディネートのネタを拾う」利用法で料理本を眺めてみると、おいしい料理への近道が、またひとつ見つかるのではないでしょうか。

平成時代の食、そしてこれから

長い連休、いかがお過ごしですか? 元号が令和に変わった今週、平成を振り返る番組や特集がいろいろありましたが、平成時代に起こった食の変遷を見ていくと、本当に大きなうねりがあったなと思います。
たとえばお菓子の世界ひとつとっても、ティラミスもナタデココもカヌレも、そして2度目のブームのタピオカも、すべて平成になって日本で流行したものです。今普通にお店に並んでいるパプリカやズッキーニ、ドライトマトやポルチーニも、平成になってから気軽に買えるようになったものばかり。有名シェフの料理本が流行し、家庭でフレンチやイタリアンを作るようになったのも、さらに言えばオリーブオイルを一般の家庭で使うようになったのも、この30年間に起こったことで、平成は、家庭料理の世界が豊かに広がった素晴らしい時代といえるでしょう。

その反面、家庭料理のあり方に別の意味の変化も。お母さんがごはんを作って家族の帰りを待つ、という風景がよく見られた昭和時代と違い、男女雇用機会均等法世代が次々と社会人になった平成時代は、女性も社会に出て働くのが当たり前になりました。核家族化もさらに進み、家族が揃って食事をする機会もどんどん減り、4人で囲んでいた食卓が2人に、そして1人に。個食や孤食という言葉が生まれたり、さらには料理が面倒でやりたくない嫌な家事の代表とされたりしたのも平成時代です。

そんな変化があってもゆるぎないのは、ごはんを食べて元気になって、明日を迎えること、一緒に食べる人がいることの大切さ。いろいろな生き方、食べ方があるこの時代を生きる人たちのために、「きちんと食べることを自分で担う」ためにできることを、これからも伝えていけたら、と思います。以前は母から子へ、大人から子どもへ伝えることだったかもしれませんが、今はそれも多様化しているので、誰かが誰かに伝えなくてはなりません。その役目をしっかり果たしていけたらと、帯を締め直すような気持ちでいる時代の変わり目です。次の令和の時代、食の世界がいい意味で成熟していくことを願っています。