平成時代の食、そしてこれから

長い連休、いかがお過ごしですか? 元号が令和に変わった今週、平成を振り返る番組や特集がいろいろありましたが、平成時代に起こった食の変遷を見ていくと、本当に大きなうねりがあったなと思います。
たとえばお菓子の世界ひとつとっても、ティラミスもナタデココもカヌレも、そして2度目のブームのタピオカも、すべて平成になって日本で流行したものです。今普通にお店に並んでいるパプリカやズッキーニ、ドライトマトやポルチーニも、平成になってから気軽に買えるようになったものばかり。有名シェフの料理本が流行し、家庭でフレンチやイタリアンを作るようになったのも、さらに言えばオリーブオイルを一般の家庭で使うようになったのも、この30年間に起こったことで、平成は、家庭料理の世界が豊かに広がった素晴らしい時代といえるでしょう。

その反面、家庭料理のあり方に別の意味の変化も。お母さんがごはんを作って家族の帰りを待つ、という風景がよく見られた昭和時代と違い、男女雇用機会均等法世代が次々と社会人になった平成時代は、女性も社会に出て働くのが当たり前になりました。核家族化もさらに進み、家族が揃って食事をする機会もどんどん減り、4人で囲んでいた食卓が2人に、そして1人に。個食や孤食という言葉が生まれたり、さらには料理が面倒でやりたくない嫌な家事の代表とされたりしたのも平成時代です。

そんな変化があってもゆるぎないのは、ごはんを食べて元気になって、明日を迎えること、一緒に食べる人がいることの大切さ。いろいろな生き方、食べ方があるこの時代を生きる人たちのために、「きちんと食べることを自分で担う」ためにできることを、これからも伝えていけたら、と思います。以前は母から子へ、大人から子どもへ伝えることだったかもしれませんが、今はそれも多様化しているので、誰かが誰かに伝えなくてはなりません。その役目をしっかり果たしていけたらと、帯を締め直すような気持ちでいる時代の変わり目です。次の令和の時代、食の世界がいい意味で成熟していくことを願っています。

青い本と赤い本。2冊の『3歳からのおべんとう』

仲良く2冊並んだ、幼稚園児のおべんとうの本。左は、2003年に発売された私の最初の著書『3歳からのおべんとう』、右は、今月発売されたばかりの『続・3歳からのおべんとう』です。
元祖はかれこれ16年前の本ですが、おかげさまで好評をいただいて版を重ね、今出ているものは第20刷。今でも春の入園入学シーズンになると、平積みや棚差しにして並べてくれる書店があり、Amazonのお弁当本ランキングでも、常に上位10位内に入っているようです。大学生のお子さんのいる読者の方から「この本使っていました!」と言われることもあります。本当にありがたいことです。

2003年当時はお弁当の本自体があまり多くなく、ましてや幼稚園児、保育園児のためのお弁当に特化したこの本は、かなり異色だったと思います。またキャラ弁ブームの始まりの頃でもあり、子どものお弁当は夢のある可愛いものでなければ、という考えが主流でした。だから、表紙にブルーを使ったことも、実はちょっと物議を醸したのです。赤やピンクや黄色をちりばめた可愛らしいデザインではなく、さっぱりとシンプルなデザインの青いお弁当の本。内容で重視したのも、可愛らしさよりもリアルさと具体的な解決策。親が作り、子どもが食べる、毎日のお弁当づくりというテーマにおいて、ひとえに「使う人のリアル」に向き合い、きちんと方法論に落とし込むことを追求しました。

16年も経った後に続編が出るというのはかなり珍しいことなのではと思いますが、今回同じ出版社から発売された赤い本『続・3歳からのおべんとう ひとりでちゃんと食べられる!』は、この仕事で見聞きする、今のお母さんたちのリアルにもう一度向き合って考えた内容になっています。作りおきや冷凍・冷蔵のコツ、4週間分の献立の立て方、小ぶりのフライパン1個で作れるメニューなども盛り込み、より丁寧に、さらにハードルを下げて、簡単に作れるよう工夫しました。手を抜くのではなく、ちゃんとおいしく食べられるお弁当を、負担をできるだけ軽減して作ることにこだわった一冊です。

そんなわけで少し内容が違う、青と赤のおべんとうの本。どちらもお弁当づくりの「コア」をとらえた点では同じです。そして時代は変わっても、おいしいお弁当を作りたい親の気持ちと、全部食べてお弁当箱を空にして帰りたい子どもの気持ちはきっと変わりません。新入園したお子さんのお弁当が始まるのは5月の連休明け。これからお弁当ライフをスタートするお母さんやお父さん、ぜひ2冊を見比べてお好きな方を選んで、お休みの間にお弁当づくりのウォーミングアップをしてみませんか?

いちごのトップシーズン

先日、昭和50年代に購入したお菓子の本を出してきて見ていたら、いちごショートケーキのいちごが、上にのっているトッピングだけということに気づきました。クリームを挟んだケーキの間に入っているのは、スライスしたバナナや缶詰の桃。今はケーキの間にもスライスいちごが入っているのが当たり前だけれど、当時は違ったんですね。いちごはある種ぜいたくな果物で、いつでもどこでも買えるわけではなかったことを思い出します。

今や、冬から初夏までかなり長い間出回るようになったいちご。つい本当の旬を見失いがちですが、実は4月の現在が、いちごがダントツにおいしいトップシーズンです。フランス人は旬のいちごを加工して食べることも多いのですが、4月の到来とともに我が家でも「いちごスイッチ」がオンになり、ジャムやシロップ、丸ごと焼き込んだケーキなど、いちご加工品の製造に忙しい毎日を過ごしています。

前回、旬を迎えた野菜のおいしさの話をしましたが、果物ももちろん同じ。ハウス栽培ではない露地もの、「作られた」いちごではない「育った」いちごを、満喫するならまさに今! 4月のいちごは香り高く、値段も当然、3月までよりずっと安い。ひと山いくらの小粒のものにも、旬のいちご本来のジューシーなおいしさがたっぷり詰まっています。見つけたら、ぜひケーキに焼き込んだり、さっと煮てコンポートにしたりして、存分に味わってください。

そういえば、最近のいちごは本当に甘くなりましたね。ある年齢以上の人は昔、いちごをつぶしてお砂糖とミルクをかけて、混ぜて食べていたことを思い出しませんか? きれいなピンクに染まったミルクと、とろりとした甘いいちご、懐かしい郷愁の味ですが、あの食べ方にも実は理由がありました。昔のいちごは今ほど甘くなかったので、しっかりつぶして真ん中まで砂糖をなじませないと、酸っぱくて食べられなかったから。甘い練乳をかけて食べる習慣も、同じ理由です。

品種改良の賜物といえる大きくて甘いいちご、立派なブランドいちごを楽しめる今は、本当にぜいたくな時代。その幸せを味わうのと同時に、名もなきトップシーズンのいちごのおいしさもぜひお忘れなく!と、声を大にして言いたいのです。

季節野菜を食べよう

雑誌の料理特集の撮影を行うのは、たいてい発売の2、3ヶ月前。撮りおろしの単行本だと半年前ということもあります。だから旬の野菜を使えることはほぼなく、年末に山菜の天ぷらを作ったり、早春にゴーヤチャンプルーを作ったりするのも普通です。先日も、冬のキャベツを使って春キャベツの料理を作りましたが、見た目はなんとか春キャベツに見せることができても、目に見えないところで実は結構手こずるのです。それは、素材に含まれる水分量が違うので、レシピの加熱時間を出すのに手間がかかるため。最近やっと春キャベツが出てきましたが、シーズン真っ盛りの野菜はやっぱり全然違うなぁ、と季節が変わるたびに思います。
トップシーズンの野菜は圧倒的においしい。常々食材を扱っているので、その違いはよくわかります。時期のずれた野菜は、旬のものに比べるとのびのび育っていない窮屈さがあって、残念ながらおいしさ2割減くらい。人間が無意識にキャッチしている季節感や体調ともいまひとつフィットしないのも理由かもしれません。今お店に並んでいるパクチーやしそはおとなしく、まだあの弾けるような香りが立っていないですよね。

たとえば春の山菜や筍のえぐみは、冬の間に眠っていた体のどこかを目覚めさせ、次の季節への活力をもらえる味わいともいえます。野菜の旬を逃さずに、意識してたっぷり食べていたら、きっと簡単に風邪なんてひかなくなります。日本の四季は本当にすばらしく、うまくできているもので、たらふく食べて少し飽きた頃に、ちゃんと次の旬のものが出てきます。

みずみずしくしなやかで、やわらかく香り高く、本来の味がはちきれんばかりに詰まった旬の野菜は、ゆでたり蒸したりのシンプルな調理で、力みなぎる一品に。今なら春キャベツ、スナップえんどう、絹さや、ふきのとう、たらの芽、うど、ふき、筍などが最高です。新玉ねぎは九州産を見かけるようになってきたので、南北に長い日本ではこれから初夏の北海道産まで順にベストシーズンのものが楽しめますね。新じゃがやそら豆、アスパラガスもしかり。旬を追いかけるのに忙しい、楽しい季節がやってきました。

『かんたん仕込みですぐごはん』の活用方法

今回は、3/2発売の新刊『仕込みと仕上げ合わせて最短10分! 帰りが遅くても かんたん仕込みですぐごはん』のお話をします。

この本は、保育園児の母である編集者、中学生の母であるライターさん、そして私の3人の「働く母チーム」で作った一冊です。一年365日、働きながら毎日のごはんを作らなければならない人たちのために役立つお料理の本が作れないだろうか? そういう人たちのためには、何が一番役に立つのだろう? と議論を重ねました。

毎日忙しく、時間がないところで作らなくてはならない、時短メニューも作りおきもひと通りやってみた。でも何かいまひとつ決め手に欠ける……最もバタバタする時間帯、夕方〜夜の作業をラクにするには、という切実な問題を考え、「レシピを分割」することを思いつきました。ひとつの料理の作り方を、前半と後半に分けるのです。つまり、朝のうちに先にやっておく作業=「前仕込み」と、夕方から夜の帰宅後にする作業=「後仕上げ」です。

どこで分けるとおいしくできて、しかもわかりやすいか? も重要なポイントでした。これは時間だけではなく作業の内容に関わるので、料理によってかなり異なります。研究した結果、「前仕込み」と「後仕上げ」のボリュームの比率を、以下の3種類に決めました。
「前2:後8」 前仕込みが軽め、後仕上げがしっかりめの料理。朝忙しく、夜ある程度時間があるときに。
「前5:後5」 朝も夜の作業量がだいたい半々に分けられる料理。
「前8:後2」 前仕込みをしっかりめにし、後仕上げは火を入れるなどですぐできる料理。帰ったらすぐに食べたいときに。
比率が8のほうでも、短いものはたった10分、長くても20分程度なので、どうぞご安心を。

本のタイトルを考えるときに「分割レシピ」「リレーレシピ」「シェアレシピ」などの案も出たのですが、この本を使いながら、まさに家族でシェアして、リレーしながら料理を作ってもらえたらいいなと考えています。たとえば、前仕込みを終えて冷蔵庫に入れた途中の料理の写真を撮って家族にシェアし、後仕上げのレシピとでき上がり写真を冷蔵庫に貼っておいて、その日、先に帰宅した家族に後仕上げをお願いしてみるのはどうでしょう。これを習慣づければ、お料理が得意でないご家族でも、楽しくごはんが作れるようになるのではないでしょうか。

この4月から保育園にお子さんを預けて仕事に戻るお母さん、毎日のごはん作りに苦労している働く女性たちのごはん作りの道しるべ、そして、転ばぬ先の杖にしていただけたら、うれしいです。

大人世代の「体を大切にする食べ方」

ある程度年齢を重ねてきて、健康を保ち、体をととのえるための「食べ方」があるんだな、とわかるようになりました。

30代後半や40歳を過ぎたあたりから、「この不調、なんだろう」と思うようになり、50代を過ぎて「ああ、もう以前とは違うんだな」と気づく。その10〜15年を乗り切るために、美容や運動を心がけることももちろん大切ですが、もしかしたら最も気をつけるべきは、食習慣の見直しなのではないかと思うのです。徹夜をしたり、1日1食や2食のいわゆる「ため食い」や、たまのごほうびにたくさん食べたり飲んだり……などということをしても、駆け抜けてこられた若い頃。でもある程度の年齢になると、体に栄養を「コンスタントに与える」ことが、実は自分の健康のためのいちばんのごほうびになるのではないでしょうか。

私自身、朝食をきちんと食べていたのはいつだろう? と考えると、それは学生時代にまで遡ってしまいます。社会人になるとコーヒーと何かをつまむだけとか、家で仕事をするようになっても、栄養バランスのよい朝ごはんとお昼ごはんを意識してとっていたとは言えないのが事実。それでも「1日3食食べる」ことだけはなんとか守っていて、そのおかげで健康体を保つことができていたのかなと思います。でも、周囲の若い人たちに聞いてみると、1日2食はざらで、下手すると1食だけしかきちんと食べない、という人、特に女性がとても多いんですね。子育て中のお母さんや仕事を持つ女性が、そんな食べ方で大丈夫かな……と心配になります。

どんなに忙しくても、ダイエットが気になっても、食事を抜くとか、「○○だけ」という食べ方にいいことはありません。たとえば、それほど難しくない、こんな2つのルールを守ってみるのはいかがでしょう。
1. さほど体に悪くないものを、1日3度ちゃんと食べる
(控えめに言っています。「体にいいもの」ならもちろんベスト!)
2. 毎回の食事に、「炭水化物」「蛋白質」「野菜か果物」の3種類を含める

3度食べることを習慣づければ、ドカ食いになることはありません。忙しい朝なら、「パンと卵と果物」「シリアルとヨーグルトと果物」「ごはんと納豆とミニトマト」「ごはんとかまぼこと白菜の漬物」でじゅうぶん。「マドレーヌとカフェオレと果物」でも、ちゃんと3種類入っています。グリーンスムージーも、バナナとはちみつを入れれば3種類。もしお昼ごはんにおにぎりしか食べる時間がなくても、買ってきたサラダや野菜ジュース、チーズちくわでもいい、3種類揃うように組み合わせを工夫して、この最低限のルールを守ってみてください。それが実は健康と美容によく、体のためにもいちばんのごほうびになる、というのが、歳を重ねた私の実感です。

自分の体はもちろん、子どもたちにも「1日3回ごはんを食べる」習慣をすり込んであげることは、嫌いな野菜を食べさせたり、好き嫌いをなくしたりすることより、もしかしたら大切なことかもしれません。コンスタントに食べて、自分で自分の体をケアできる大人に育てるのも、親が与えてあげられる重要な習慣づけなのだと思います。

来月2日に開催される、素敵に歳を重ねる世代のためのセミナー「Aging Gracefully フォーラム 2019女性の健康と美を考える」に参加し、「食べてカラダを整える AG世代の健康レシピ」というテーマでお話をさせていただくのですが、今そんなことを考えながら、当日に臨みたいと思っています。ご興味のある方は、ぜひ聞きにいらしてくださいね。(詳細はこちらへ。2月20日までお申し込みができます

塩糖水漬けでお肉をおいしく

発売中の『暮しの手帖』98号の特集、「塩糖水漬けでお肉をおいしく」を担当させていただきました。

「塩糖水(えんとうすい)」とはその名の通り、塩と砂糖を溶かした水のこと。昨年秋発売の共著『暮しの手帖別冊 これで よゆうの晩ごはん』でもご紹介した方法なのですが、これが際立って使える!ということで、さらに詳しくご紹介しています。

この「塩糖水」にお肉を漬け込むと、まず塩によって塩味がつき、肉の中の保水力がアップします。砂糖にも保水力をアップさせる力があり、さらに肉をしっとりとした食感に変えてくれます。そして水に漬かっているため、水分をたっぷり補いながらその工程が進んでいきます。つまり、肉に適度な塩味がつき、水気が逃げないのでかたくならない、とても理にかなった方法というわけです。

塩糖水から取り出した肉は、水気を拭いて焼くだけでシンプルなおいしさ。もちろんしっとりジューシー。パサついてかたくなりやすい豚もも肉や鶏むね肉、ささみなどは最適です。漬け込んだ鶏むね肉を薄切りにしてしゃぶしゃぶにしたり、そのままチキンカツにしたり、クリーム煮にしたり。鶏ささみは蒸してサラダ仕立てもいいし、鶏天もサクサクジューシーな絶品に仕上がります。塩麹に漬けた肉もおいしいですが、塩糖水は味にクセがないので、より汎用性が高いのもメリット。いい塩梅に漬かった肉は、水を抜いて冷蔵庫で4日ほど保存可能。日持ちするのもうれしいところです。

「塩糖水」を思いついたきっかけは、若い頃に働いていたフランスのシャルキュトリー(豚肉加工店)で、ハムを仕込むときに使う「ソミュール液」。濃い食塩水にスパイスやハーブが入っていて、肉を漬け込むと深い味わいと食感がプラスされるのです。これを他のお肉でやってみたらどうなるだろう? と、いろいろ試行錯誤して、今回ご提案した内容になりました。

ちなみに、「塩糖水」の名付け親は、暮しの手帖の編集の方。『暮しの手帖』の後ろの方に「試作室から」というレギュラーページがあるのですが、98号では私が登場して、裏話をご披露していますので、よろしかったらご覧ください。ご感想があれば、ぜひ編集部に送ってくださいね。

冷蔵庫に塩糖水漬けのお肉があれば、疲れて帰宅した夜も、取り出して焼いて野菜をちょっと添えるだけで、おいしくヘルシーな一品があっという間に完成。塩と砂糖を入れて振り混ぜただけの液体が、お肉料理をぐっとおいしく、ラクに、楽しくしますよ!

シンプル粕汁で風邪予防

冬真っ盛り。空気が乾燥する今の時期は、風邪やインフルエンザが猛威を振るいます。私はこの季節、温かい汁物を食卓に欠かさないのですが、喉を潤し、体を温める汁物は、毎年かなり風邪予防に効果を発揮している実感があります。

先日仕事で大阪に行った際に、明治時代から営業している、以前から気になっていたある有名な食堂でごはんを食べました。かやくごはんと焼き魚と粕汁を注文したのですが、この粕汁の具が、潔いほど少なくてシンプル。でもおだしがとびきりおいしくて、目から鱗が落ちる思いでした。

スープや汁物というと、今はそれさえ食べれば栄養がとれる具だくさんのものが主流で、私自身もこのところ、家で作る汁物はいつも具材をたっぷり入れていました。でもこの粕汁に出会って、いつも具だくさんにすることにこだわる必要はないかも、と感じました。和のスープに限っては、おいしいだしを効かせたベース、つまり汁をたっぷり味わうタイプをもっと楽しんでもいいのではと思ったのです。

たとえば、濃いめにとったかつおだし(多めのかつお節を使って長めに煮出してOK)に大根と油揚げを入れ、酒粕をたっぷり溶いて、薄口しょうゆで味をつけたシンプル粕汁はいかがでしょう。

濃度があってアミノ酸がたっぷり含まれたひと椀は、心も体も温めてくれる冬の極上スープ。だしに昆布を加えれば味わい深さが増しますし、具材ににんじんやこんにゃくを加えればさらに本格的に。具材は1、2種の野菜だけでも手軽でおいしいです。いつものお味噌汁に酒粕を溶き入れるだけでも、体の温まり方がだいぶ違います。

冬場は具だくさんの汁物に加え、あえて具を少なめにしたシンプルな汁物、濃いめのだしに酒粕や味噌を溶くだけの気軽に作れる汁物をレパートリーに加えて、両方を使い分けると楽しいのでは。栄養たっぷりの温かいスープを毎日の定番メニューにすれば、ひき始めの風邪もどこかに飛んで行き、これからの寒い数ヶ月をきっと元気に乗り切れるはずです。

祖母のおせち料理

みなさんのご家庭では、お正月に何を召し上がりますか?

この時期いろいろ話題になるおせち料理ですが、「自宅で作る」「購入する」という選択肢で語るものではなく、大事なのは今も昔も、新年を迎えるにあたって普段とは少し違う料理を用意し、家族や親しい間柄の人たちと食卓を囲んで食べるということなのかな、と私は思っています。

そんな考えは、私の祖母のおせちにさかのぼります。私の実家は代々、神戸出身なのですが、あるときふと、お正月料理にも地方ならではのオリジナリティがあるのではと思い、親世代に尋ねてみたことがありました。両親は戦争の只中に育った世代で、子どもの頃に家族でおせち料理を囲んだ記憶はないとのこと。ではその上の世代、祖父母の時代はどうだったのかというと、父より年上の伯母が当時のことを覚えていて、祖母の料理のことをいろいろ教えてくれました。

祖母の用意するお正月のお重の中には、もちろん黒豆や数の子、ごまめなど定番の品々もありましたが、メインのごちそうとしていつもたっぷり入っていたのが、ハムやソーセージだったのだそうです。時は大正時代の終わり頃。味噌問屋の長女に生まれ、会社員の祖父に嫁いだ祖母は、雑誌『主婦之友』の料理ページを見ながら、子どもたちに手作りのカスタードクリームを使ったおやつを作ってくれるようなお母さんだったそうです。当時から神戸にはパン屋さんやデリカテッセンなど、ヨーロッパから入ってきた新しいお店がたくさん軒を連ねており、若い主婦であった祖母は、そんなハイカラな神戸の街を歩いて、ごひいきのハム屋さんを見つけたのかもしれません。デリカテッセンのショーケースの中で、キラキラ輝いているおいしそうなハムやソーセージ。そんなお気に入りのごちそう料理を、家族とお正月に囲むおせち料理のとっておきのメインに据えた、祖母の思いが伝わってきました。

その影響か、私も家族と囲むおせちには、肉料理をたっぷり入れます。ミートローフや鶏ひき肉を使った松風焼きなど、冷めてもおいしい肉料理は、我が家のお正月に欠かせません。そしてもちろん、ハムやソーセージも。年始に家族や大切な人と囲む食卓には、みんなが大好きな、ちょっと贅沢なおいしいものを、こだわらずに選べばいいのではないでしょうか。そんなことを思わせる、懐かしい祖母の思い出です。

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