ミモザの思い出

今の季節、枝先に愛らしい黄色の花をつけるミモザ。この花を見ると、南仏で料理修業をしていたある春のことを思い出します。

日本の早春は、梅、桃、そして桜と、ピンク色の花が続きますが、フランスではミモザを皮切りに、レンギョウ、水仙、菜の花と、黄色い花が春を連れてくる印象があります。特にミモザは南フランスを代表する春の花。フランスで過ごした3年間のうち約1年ほど、コートダジュールのビオットという小さな村のレストランで働いていた私は、その春、初めて大きな木に咲くミモザの花を見ました。

Photo by Anthony Salerno on Unsplash

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厨房スタッフの担当として、前菜、魚、肉、デザートと分かれている割り当ての中で、私の担当は前菜と魚でした。クリスマスに向かう時期には、ブルターニュから届いたオマール海老を山ほど処理して、蒸してはほぐし、という作業を繰り返しました。パリのレストランと違い、サーモンや鱈などの大きな魚ではなく、ルジェという地元で取れる小さな魚などもたくさん扱う仕事でした。この土地の人々はパリの人たちよりたくさん魚を食べるようで、瀬戸内育ちの自分には、身の丈に合った楽しい仕事でした。

小さな村だったので、日本人はもちろん私一人。インターネットも携帯電話もない時代、誰かと話したいときは村の真ん中にポツンとあった公衆電話へ。それも国際電話ではなく、小銭をチャリンチャリンと落としながら、パリに住んでいる友達と話すくらいでした。テレビもなく、外からの情報は仕事仲間から聞く話とラジオだけ。人生であれほどポツンと一人ぼっちだったことはなかったけれど、当時の私にとってフランスは、孤独になることを受け入れてでもいたい場所だったのです。素敵な場所で楽しい仕事仲間に恵まれ、大好きな仕事に夢中になっていた時期でした。

温暖な地中海とはいえ、思ったより寒いヨーロッパの冬。夕方には日が暮れてしまうので、仕事が終わって気晴らしに遊びに行くことも減ります。そして、寒い冬の修業は、他の季節より体力的につらいところもあって、なんとなく鬱々とした気分になってしまうことも事実でした。でも、そんな寒くて暗い冬ももうすぐ終わる、ということを、あの明るい黄色の愛らしい花が教えてくれました。少し寒さが和らいだ頃に咲き始め、大木の枝先で風に揺れるミモザの花を見て、とても感動したのを覚えています。かれこれ30年も前の話ですが、その時の感動は今も褪せることがなく、この時期、花屋さんで見かけるとついたっぷり買ってしまうのです。

明るく前向きな気持ちにさせてくれる、思い出の花。今年も、フランスの春はもう始まっていると聞きました。日本も今年の春はとても暖かく、桜の開花も早そうだとのこと。さまざまな心配なニュースが駆けめぐる今日この頃ですが、少しでも状況がよくなって、桜の咲く頃には、みなさんが良い春を迎えられることを願っています。

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